小学校外国語活動はこれ1冊でO.K.A 文字を上手に導入する

 

  英語の学習は「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つの活動から構成されます。中学校以降の英語学習ではこれがバランス良く配置されるのですが、小学校外国語活動は原則として「聞く」「話す」に偏って構成されます。「文字は使わない」のが小学校外国語活動の原則とされるようです。

というのは(ここからは私の推測)英語学習(第2言語学習)と子どもの言語獲得をアナロジー(類比)で考えているからだと思うのです。子どもが生まれ落ちてから言語を身につける時には、必ず「耳から音を聞き取って、口から出す」というプロセスが先行します。文字から言葉を覚える子どもはいないわけです。(例外は、私が専門としている聴覚障害児の場合です。手話で育つ子どもはこの「音」の代わりに「手の動き(=形態素)」を目で見て、自分の手で再現するという過程を経て言葉を獲得していきます。)

  だから「できるだけたくさん英語の音を入れて、できるだけたくさん口から出させる」ことが重視されるわけです。「模倣(繰り返して言う;repeat)」「問答(問いに対して自分で考えて答える)」いずれにしても、「音としての英語」をいかにしてたくさん入力するのか、ということが焦点になります。ですから、ディスレクシア(識字障害)の傾向のあるお子さんなどでも「小学校の英語は楽しくてたまらない」ということがあるわけです。先生の話を聞いて、オウム返しに答えたり、答えを考えて言えばいいわけですから。ところが、難聴の子どもやワーキングメモリーの小さい子ども、あるいは音声情報の処理(認知弁別や記憶)が巧みでない子どもにとっては、これは大変に苦しくてとらえどころのない学習になってしまいます。

  子どもが生まれ落ちて家族や周囲の環境の中で使われる言語を身につける、これを「第一言語の獲得(acquisition)」と言います。いっぽう、学校などで意図的に教えられて身につける言語を「第二言語学習(習得;master)」と呼びます。これが果たして、同じプロセスを経るのか、それとも違うのか、この点についてはまだ言語学的には明らかになっていません。英語教育を推進しようとしている人の多くは「同じ」と考えているようです。だから子どもが幼児の生育過程と同じように英語のシャワーを浴び続けることが、英語の力をつけることになる、しかもそれは早い時期からの方が効果的だ、という論理で小学校外国語活動になっていくわけです。  この点についての議論に、これ以上深入りはしませんが小学校外国語活動が文字を忌避する傾向にある、ということはつかんでおく必要があります。

  ところが文字がないということは何とも具合が悪いのです。「再現性」の問題が生じるのです。音は空気の振動ですから生成した瞬間から消滅し始めます。一度捉え損ねたら、つかむことができません。また、音声言語というのは「線条性」といって時間系列に沿って順番に提示されていきます。最初に言った言葉の意味は、後に続く言葉との関係でしか理解できないのに、大事なキーワードが出てきたときにはもう前のことばは消えてなくなっています。書いたものを読むときにはこのような問題は生じません。

ですから文字記号の持つ「記録性」というのが、学習には大変に役に立つのです。また、言語学習が進むにつれて、扱う素材が長く複雑になってきます。それをすべてそらんじて覚えておく、というのはかなり優秀な子どもにしか期待できない活動です。

このような点を考えると、小学校外国語活動においても早期から文字の導入を図っておくことは大変に有効であることがわかるでしょう。

次の章では、英語の文字の特質とその導入の観点を紹介します。

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